申如録

日常生活で考えたことなど

2020-01-01から1年間の記事一覧

性欲の話

人間の三大欲求と呼ばれるものには食欲・性欲・睡眠欲があるが、なぜ性欲だけは隠されなければならないのだろう。電車の中でおにぎりを食べても爆睡しても問題ないのに、なぜセックスをしたらただちに捕まってしまうのだろう。 このことについて知り合いに尋…

霧の話

先日の朝、家を出たら霧がすごかった。視界がぼうっと白く霞み、高層マンションの10階から上はまったく見えなかった。街中の音も心なしか静かで、とても穏やかな朝だった。 私は、このまま霧がどんどん濃くなって、一寸先も見えないほど真っ白になって、その…

瓶の話

駅の待合室に、かばんに瓶を忍ばせた男がいた。男がかばんをごそごそと探るたびにキン、と高い音が鳴り、私の意識はかばんに吸い寄せられた。 中村文則の『遮光』という小説にも似たような男が出てくる。その男は黒いビニールで包んだ瓶を人目を避けるように…

火事の話

先日の朝、駅に向かって歩いていたら近所の民家が燃えていた。すでに消防車が何台も駆けつけており炎は見えなかったものの、真っ黒に焼け焦げた民家ともうもうと立ち昇る煙がその家の終わりを表していた。 家が燃えるというのは考えてみれば大変な事態だ。生…

眠られない夜のたわごと

私は軽率な人間だ。 思っていることはすぐ顔に出るし、言わなくてもいいことまで言ってしまったりする。良く言えば素直だが悪く言えば無粋であり、周りに迷惑をかけてしまうこともあるからやめたいのだが、いまだに気を抜くとこの癖が出てしまう。 思えば、…

近畿周遊記2

9月中旬の「近畿周遊記」に引き続き、10月31日から11月3日までの4日間、私は再び奈良を訪れてきた。この「近畿周遊記2」はその旅行記であり、「近畿周遊記」の続編である。 前回の訪問は大変内容の濃いものとなったが、今回も4日間で延べ16か所もの寺社仏閣…

杜牧「江南春」訳・解説

【本文】 千 里 鶯 啼 緑 映 紅水 村 山 郭 酒 旗 風南 朝 四 百 八 十 寺多 少 楼 台 煙 雨 中千里 鶯(うぐいす)啼き 緑 紅(くれない)に映ず水村(すいそん) 山郭(さんかく) 酒旗(しゅき)の風南朝 四百八十寺(しひゃくはっしんじ)多少の楼台 煙雨(えんう)の…

憾満ヶ淵

JR/東武日光駅を降りて日光東照宮へとまっすぐ進み、神橋を渡って左に曲がり大谷川をさかのぼるようにして道なりに進んでいくと、慈雲寺と書かれた門がある。直線距離にして駅から約2.5キロ、東照宮から少し外れた人気のないところにあるからだろう、辺りは…

月の炎

天高く上って白くなった満月を長い間見ていると、月の輪郭から青い炎が出てくる。 私の好きな女(ひと)は月から来たのだという。突拍子もない話ではあるが、本人が言うならまあそうなのだろう。 腰まである艶やかな黒髪、情熱的でいてその奥にある種の諦観…

誕生日の話

2020年9月22日、私は26回目の誕生日を迎えた。まだまだ若いとはいえいわゆるアラサーに突入し、身体の疲れは10代のころと比べて明らかに取れにくくなっている。とはいえ着実に成長できているのも確かで、今年は自分から何かを作っていく年にしたいと思ってい…

ちゅう太の話

これは、とある時代の、とおい国のおはなしです。 その国のはずれ、都からは山をいくつも越えたところに、〈あかい村〉という村がありました。あかい村は農業でくらしをたてている小さな村で、人々はその日その日をのんびりと、ほがらかに過ごしていました。…

玉を食うばけものの話

むかしむかしあるところに、玉(ぎょく)をたべるばけものがいました。玉とは日本や中国などでたいせつにされてきた、きれいにみがかれた石のことです。玉はきれいですべすべしているので、みんなほしがり、たからものにしてきました。 玉をたべるばけものは、…

近畿周遊記 その5

5 近畿旅行の最終日は朝7時過ぎに目が覚めたが、すぐに残念なことに気づいた。頭が痛いのだ。 私は片頭痛持ちなので低気圧にはめっぽう弱い。気圧が下がるとずきずきと頭の表層が痛み出し、ひどいときには視界が狭くなってしまう。今回に関してはもちろん旅…

近畿周遊記 その4

4 昨日とんでもなく濃い1日を過ごしたせいか、私たちはお互いに3時間ほどしか寝られなかった。再び寝付けそうもないので、室生寺に向けて朝8時にホテルをチェックアウトした。さすがに睡眠不足の感覚はあったが不思議と頭は冴えていた。天気は雲一つない快…

近畿周遊記 その3

3 今朝はいつもより1時間以上早い、5時50分に自然に目が覚めた。それでいてまったく眠くないし疲れもない。これは奈良の雰囲気が安定しているおかげだろうか、それとも単に私が浮かれていて眠気も疲れも感じていないだけなのか。とにかく今日は結果として1…

近畿周遊記 その2

2 名古屋駅手前からうたた寝をしていた私が目を覚ましたとき、のぞみ号は岐阜の山中にあった。標高の高いところほど雨雲は近い。岐阜の雨雲は手でつかめそうなほど近くに見えた。 岐阜山中の雲 雲はわたでできているので手でそっとつかむことができる。優し…

近畿周遊記 その1

1 10時42分発新大阪行のぞみ号の車内はとても空いており快適である。東京の天候は晴れ、湿度はさほど高くない。睡眠は十分にとったし、忘れ物もおそらくない。出発にはこの上ないコンディションだろう。 今日は昼過ぎに新大阪に着き、昼食を食べ(粉ものを…

生き甲斐について

この前、後輩に「生き甲斐は何ですか」と訊かれた。生き甲斐。手元の『広辞苑 第五版』には「生きるはりあい。生きていてよかったと思えるようなこと」とある。私はうまく答えることができず、お茶を濁した。 私は良い物、良い人、良い場所に触れるのが好き…

目と目が合う話

中学生のころ、同じ学年に「私と目があった人は全員私のことが好き」という規則を持っている女子生徒がいた。その規則のおかしさもさることながら、彼女が残念ながらかわいくなかった(むしろ容姿が劣っていた)こともあって周りからは白い目で見られていた…

中島敦「山月記」考

表題の『中島敦「山月記」』という文字を見て懐かしく思った方も多いのではないでしょうか。われわれが高校生だったころ、その8割以上が現代文の授業で読まされたであろう、李徴が虎になってしまうあの話です。(「山月記」は青空文庫で読めますから、気にな…

不細工の話

駅で不細工を見た。太った顔は全体的に荒れて赤く腫れ上がり、目は片方がいびつに平べったくなっていた。要するにかなりの不細工で、生まれてこの方恋人などいたこともないことが容易に想像できるような容姿だった。 その男は、8月のうだるような暑さの中、…

甲子園の話

コロナのせいでスポーツ(観戦)が不要不急であることがバレてしまった。だから今年は甲子園がない。 僕は地区予選から試合を見に行くくらいには高校野球が好きだが、甲子園がなくてもまあ普通に夏を過ごせている。やることは他にいくらでもあるし、気持ちは…

世界の手に負えなさの話

この世界は手に負えない。それは世界が広いからとか人口が多いからとかいう理由ではなくて、たとえ世界が2m2の広さしかなくて自分ともう一人しか存在しなかったとしても、この手に負えなさは変わらない。もっといえば、たとえ世界に自分一人しか存在しなかっ…

お酒の話

昨日はたばこの話をしたので、今日はお酒について一言。 たばこと同様、お酒は毒だ。ただ、毒が薬になるときは往々にしてあるもので、そうしたときには適量を服用すると良い。 個人的に、お酒は調子が良くないと飲めない。調子が悪いととにかく悪酔いするか…

たばこの話

お酒を飲んで運転すると人を殺してしまうが、たばこを吸って運転しても人を殺すことはない。酔った勢いで失敗することはあるが、たばこではそもそも酔わない。そう思うと、たばこよりも先にお酒を規制するべきなのではないかな、と思う。僕はどちらも好きな…

風邪の話

久々に風邪を引いた。風邪の予兆はあったにもかかわらず、忙しさにかまけてそれをないがしろにしていたことが原因である。まったくの不注意と言うほかない。 私が風邪を引くときは、次の3つの予兆がある。 やたらと眠くなる 首・肩・背中・背骨の凝りや痛み…

座標と無

私は学生のころ鈴木大拙(以下「大拙」)がとても好きで、彼の全集を読んでみては何やらわかったようなわからぬような気持ちになっていた。つい最近、岩波文庫から彼の『神秘主義 キリスト教と仏教』なる著作が出て、それは初の日本語訳であるとのことなので…

新型コロナウイルスについて思うこと その2

新型コロナウイルス(以下「コロナ」)について、その1では「感染の意味の変容」と「道徳性の変容」について述べた(ような気がする)。今回は、コロナが壊したものについて述べていきたいと思う。私はいま東京に住んでいるから、東京での暮らしを主に念頭…

新型コロナウイルスについて思うこと その1

・はじめに 現在、世界で猛威をふるっている新型コロナウイルス(以下「コロナ」)について、私は脅威を感じるというよりはむしろ感心してしまっている。コロナの性質に関する情報を耳にするたび、私は思わず「なんてしたたかなんだ」と唸ってしまう。私は医…

結婚の話

A「人ってさ、結婚するの好きだよね。」B「え、急に何? どうしたの?」A「いや、ふと気になっていろいろ調べてみたんだけど、2019年の婚姻率は47%で、日本人の2人に1人は結婚しているみたいなんだ。それに、生涯未婚率は男性が23.4%、女性が14.1%らしい…