申如録

日常生活で考えたことなど

数式の共通性と独在性

 小学生のころ、「数式は世界共通の言語だから誰とでも通じ合える」と聞いて不思議に思ったのを覚えている。たしかに数式の内容は誰にでも伝わるかもしれないが、僕が数式を作ったり理解したりするときのあのイメージは誰にも伝わらないのだから、数式は誰とでも通じ合えるなんてうそじゃないか。

 数式で伝えられないものがあるとすれば、それは数式を扱っているのが私だということだ。数式は誰にでも通じるがゆえに、それを扱う主体を限定することができない。扱う主体は誰であるかはどうでもいいのだ。

 いま思い返してみれば、あのときの違和感は独在性の伝わらなさへの気づきだったのだろう。ほかならぬ私が存在するということは、数式とは徹底的に折り合いが悪い。数式を扱うのが私だということが、どこにも書けないからだ。

 では、いったいどこになら書けるのだろうか? 私の血で書かれたものは。