申如録

日常生活で考えたことなど

劉琨「答廬諶詩一首並書」

 冬はお酒が美味しい。特に日本酒と焼酎が美味しい。気がつけば立冬まで3週間弱、日は目に見えて短くなり気温はぐっと低くなってきた。楽しみな季節が近づいてきている。

漢詩には酒を扱ったものが多く、漢詩集をぱらぱらめくっただけでも容易に見つけることができる。しかし酒を扱った文書となると、漢詩ほど容易には見つからない。
 そんなわけで、ここでは私が一番好きな酒に関する文書を紹介する。今から1700年以上前、動乱の晋の時代に活躍した劉琨という人が部下の廬諶に宛てた手紙の一節である。

 酒に関する箇所の前には、祖国が亡国の憂き目に遭ったことへの悲哀と憤りが記される。

國破家亡、親友彫残、負杖行吟則百憂倶至、塊然獨坐則哀憤兩集、
国は破れて家はなくなり親友たちは落ち延びて、杖をつきつつ詩を吟じれば百の憂いがやって来て、独りぽつんと座ってみれば哀しみと怒り込み上げる。

 そんな悲哀と憤りを慰めてくれるのは、知己と酌み交わす酒である。

時復相與、擧觴對膝、破涕爲笑、排終身之積惨、求數刻之暫歡、
時おり一緒に仲良く飲んで泣き顔破って笑顔に変えて、長年積もった憂さを晴らしてしばらく楽しく過ごしましょう。

 そして手紙は次のように続く。酔いが醒めれば慰めは終わる。

譬由疾疢彌年而欲一丸銷之、其可得乎。
しかるにこれを例えてみれば、幾年にわたる長患いをただ一粒の薬で消さん、どうしてこれができようか。

――劉琨「答廬諶詩一首並書」より

 お酒をしっぽり飲みたいなあと思う。